砂糖よりも格段にカロリーが低い代替甘味料・希少糖(主にD-プシコース)が話題になっていますね。
希少糖(プシコース)とは何なのか?という疑問については別のところですでにお伝えしたとおりですが、皆さんは「希少糖の原料は何なのか?」ということも気になるのではないでしょうか。
前の記事では希少糖がどういう効果を持つか、という話を主にしていて希少糖がどうやって作られているかというのは省略してしまっていますので、こちらでは希少糖がどんな原料を用いて作られているのか、ということをお話していきたいと思います。
希少糖生産の背景
希少糖とは何か?という記事においては、単に「希少糖の生産は比較的容易にできる」くらいの記述に留めておきましたが、この生産が容易になった背景には、香川大学農学部の何森健教授の研究があります。
香川大学農学部の何森健教授は30年以上に渡り希少糖の研究を続けてこられたのですが、その中で「希少糖を生産できる酵素」の発見をし、希少糖の大量生産が可能になったのです。
希少糖というと、株式会社レアスウィートの「レアシュガースウィート」がまず名前に挙がります。
これは香川県にある会社で、香川県には希少糖研究センターなどもあって、産官学一体となって希少糖の研究・生産を進めている「希少糖のメッカ」とも言える地なのです。
ただ、私達がその辺のスーパーとかドラッグストアで見かけるほどには至っていませんよね。これについては大量生産が可能になったとはいえまだまだ生産が追いついていない状態なのだとか。名前の通りまだまだ「希少糖」というわけですね。
希少糖は何を原料にして作られる?
希少糖(プシコース)は果糖(フルクトース)から作られます。
果糖(フルクトース)はその名前の通り果物の中に豊富に含まれる糖類ですね。これにある微生物が持つ酵素を反応させることで作られます。
※参考 かがわ希少糖プロジェクト
希少糖の生産工程においてはイズモリングという考え方が重要になってきます。
これは様々な単糖類に酵素を反応させて違う単糖類を作り出すという工程を図式化したもので、すべての単糖類が連結することになっています。
つまり、どんな単糖類を出発点の原料にしても最終的には希少糖を生産できるということですが、希少糖(プシコース)はフルクトース(果糖)から作られるので原料となるのはこのフルクトース(果糖)か、もしくはフルクトースを作るためのグルコース(ブドウ糖)ということになります。
希少糖の製造工程は
①微生物の培養と酵素の大量生産
②化学反応による希少糖への変換
③希少糖と原料(果糖等)との分離
④希少糖の濃縮
⑤希少糖の結晶化
という5段階から成り立っているようです(参考:かがわ希少糖プロジェクト)。やはりキーポイントは①でどれだけ酵素が生産できるか、②でどれだけ希少糖へ変換できるかというところでしょうね。
大量生産するにはフルクトースを原料に酵素反応させるのですが、実はフルクトースを加熱することでも希少糖へと変わっているということが報告されています。
サトウキビ搾汁やカラメルソースを原料にして加熱することで希少糖が増えたという実験があり、サトウキビはともかくとしてカラメルソースは家庭でも作れますよね。まあ全部変わるわけではないと思いますが。
希少糖は人工甘味料とほぼ同じ?
「天然にも存在するフルクトースが原料だから安心!」というのが希少糖の謳い文句としてありますが、果たしてこれは正しいのでしょうか?
希少糖の概要については既にお伝えしましたが、ざっくり言うと
「自然界にはほとんど存在せず、生物が利用することが出来ない糖」
ということになります。こう書くとまるで人工甘味料のようにも思えてきますよね。実際、人工甘味料というのは自然界に存在せず、生物が利用することが出来ない糖です。
誤解を恐れずに言うと、私は希少糖は人工甘味料とそれほど変わらないと思っています。
この世のすべての人工物というのは元を辿れば「天然物質」が原料であり、全くの0から作り出すなんてことは有り得ません。原子爆弾の材料として悪名高い「プルトニウム」ですら、天然に存在するウランを原料にした核融合反応で作り出されます。これも「天然由来の物質」というわけですね。
一見屁理屈のようにも思えるこの話は実は結構重要で、健康食品は大抵の場合「天然由来の物質を原料にしているから安心!」という屁理屈を売り文句に使っているのです。
人工甘味料の「スクラロース」だって、砂糖を原料にしています。砂糖は天然のサトウキビを原料に作られるものですから、これも「天然成分から作られた甘味料」というわけです。そうなると原料がフルクトースだろうと砂糖だろうと大差はなく、希少糖も人工甘味料も似たような物質ということです。
話が人工甘味料の話にシフトしてしまいましたが、要するに「原料が天然の○○だから安心~!」というのは鵜呑みにしてもしょうがないということなのです。
じゃあ希少糖は危険なのか?というとそういうことでもありません。
そもそも人工甘味料というもの自体にそれほど危険性を感じません。「バカとハサミは使いよう」なんて言いますが、人工甘味料というのもカロリーを抑えながら食品に甘さを加える事ができるという優れものです。
もちろん大量摂取した時のリスクだとか、長期的に摂取した時の体への影響がわからないといったことはあると思いますが、そんなことを言い出すとすべての食べ物に当てはまる話です。これは希少糖も同じ。
それに、「健康に害がないこと」を証明するというのはいわゆる「悪魔の証明」という話であってほぼ不可能に近いのです。
人工甘味料・スクラロースの危険性のお話でもしましたが、例えば「スクラロースを取っていたら風邪を引いてしまった」なんて人がいた場合、「風邪を引いてしまったのはスクラロースが原因ではないこと」を証明しなければ「スクラロースのせいで風邪を引いた!」という風になってしまうということです。
人間の体というのはものすごく複雑に出来ていて、色んな要素が絡み合って「風邪を引く」という現象を引き起こしています。だから風邪を引いた本当の原因がなんであれ、スクラロースが全く無関係であることを証明するのはほぼ不可能なのです。
逆に、こんな風に一例を挙げることで「スクラロースを取ると風邪を引く危険性があり!」と言うことは容易です。実際、スクラロースが風邪を誘発した危険性がないことを証明できない以上はそれが正しいからです。
だからこそ、巷では「健康に良い」とされている食べ物ですら、一方では「健康に悪い」なんて言われることもあったりと二転三転しているのです。
調べると「納豆は実は健康に悪い!」なんてことを書いた記事もありましたね。こうなるともう何も食べられなくなってしまいます。
私達が出来るのは、色々な情報が錯綜する中でも「信用性があるもの、確実なもの」を拾って、そこから取捨選択していくということでしょう。「絶対に安全な食べ物」が存在しない以上はそうするのが一番賢い方法です。
では希少糖について確実に言えることは何か?というと
・人間が消化・吸収できない糖質
・甘さは砂糖の7割くらい
・自然界にはほとんど存在しない
ということですね。これはもう人工甘味料と変わりません。
違う点があるとすれば「自然界にはほとんど存在しない」という点でしょう。人工甘味料は自然界には存在しませんが、希少糖は「自然界に少しはある」のですからね。これは結構重要な違いで、「自然界にも存在するから希少糖は安心ですよ!」なんてことが言えるわけです。
今や「人工甘味料は悪だ!危険だ!」という風潮は完全に一般化されているように思えますが、そういった背景にあってこの「自然界にも存在していて安全な希少糖」というのは正にピンポイントで消費者心理を突いていると思います。
「危険を回避したい」「安全に生きたい」というのは人間の本能であって、その欲求は強烈です。健康食品というのはそこをうまく突くから長年に渡って売れるのです。
希少糖はフルクトースが原料で安心、というのではなく希少糖がどんな効果を及ぼすのか?という「希少糖そのもの」に目を向けた方がよいでしょう。
まとめ:希少糖(プシコース)の原料は何なのか?危険な人工甘味料なの?
希少糖(プシコース)の原料が何なのか?ということをお話してきましたが、まとめると
・希少糖(プシコース)はフルクトースを原料にして作られる
・原料が何か、ということを突き詰めると全部天然物質に行き着く
・希少糖は人工甘味料とほとんど変わらない
ということですね。人工甘味料にはなく、希少糖にしかない効果があるとしたら希少糖はすごく良いものと言えるでしょう。